特許出願等における国内優先権
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特許出願等における国内優先権について

1. 特許出願等における国内優先権とは


特許出願等における国内優先権とは、日本国内において先にされた特許出願若しくは実用新案登録出願、又は日本国を指定国に含む国際出願(以下、「先の出願」という。)を基礎として主張することができる優先権のことです(特許法41条、実用新案法8条)。

国内優先権を主張して特許出願、実用新案登録出願又は日本国を指定国に含む国際出願(以下、「後の出願」という。)すると、後の出願に係る発明又は考案のうち、先の出願の出願当初の明細書等に記載された発明又は考案についての新規性(特許法29条1項、実用新案法3条1項)、進歩性(特許法29条2項、実用新案法3条2項)、先願(特許法39条、実用新案法7条)、拡大先願(特許法29条の2、実用新案法3条の2)等の適用については、先の出願がされた時期(優先日)を基準として判断され、先の出願と同様の利益を享受することができます。

2. 国内優先権の主張をするための要件


先の出願の出願人は、次の場合を除き、後の出願に係る発明又は考案について、先の出願に基づいて国内優先権を主張することができます(特許法41条1項、実用新案法8条1項)。

国内優先権を主張する場合には、願書に国内優先権を主張する旨及び先の出願の表示を記載するか(特施規27条の4等)、国内優先権を主張する旨及び先の出願の表示を記載した書面を経済産業省令で定める期間内(先の出願の日から1年の期間を経過後2月以内)に特許庁長官に提出する必要があります(特許法41条4項、実用新案法8条4項、特施規27条の4の2第3項1号乃至3号等)。※ただし、願書にその旨及び先の出願の表示を記載した場合には、書面の提出を省略することができます(特施規27条の4等)。

3. 国内優先権主張の効果


(1)国内優先権を主張して特許出願又は実用新案登録出願をすると、後の出願に係る発明又は考案のうち、先の出願の出願当初の明細書等に記載された発明又は考案についての新規性、進歩性、先願、拡大先願等の適用については、先の出願がされた時期(優先日)を基準として判断され、先の出願と同様の利益を享受することができます(特許法41条2項、同3項、実用新案法8条2項、同3項)。

※後の出願に係る発明又は考案が、先の出願の出願当初の明細書等に記載されている発明又は考案の範囲を超えているときは、その超えた部分についての新規性、進歩性等の適用については、現実の出願時期を基準として判断されることになります。

(2)先の出願は、その出願の日から経済産業省令で定める期間(1年4月)を経過したときに取り下げられたものとみなされます(ただし、先の出願が放棄され、取り下げられ、若しくは却下されている場合、査定若しくは審決が確定している場合、実用新案権の設定の登録がされている場合又は全ての優先権主張が取り下げられている場合を除く。)(特許法42条1項、実用新案法9条1項、特施規28条の4第2項等)。

※先の出願が国際出願の場合は、国内処理基準時又は国際出願日から経済産業省令で定める期間(1年4月)を経過した時のうちいずれか遅いときに取り下げられたものとみなされます(特許法42条1項、実用新案法9条1項、特許法184条の15第4項、特施規38条の6の5等)。

(3)国内優先権の主張は、先の出願の日から経済産業省令で定める期間(1年4月)を経過する前であれば取り下げることができますが、この期間を経過すると国内優先権の主張を取り下げることはできなくなります(特許法42条2項、実用新案法9条2項、特施規28条の4第2項等)。

4. 戦略としての国内優先権主張


明細書等の補正は遡及的効果を生ずる手続であるため、出願当初の明細書等の範囲内でのみ認められ、新規事項の追加は認められません。これに対し、国内優先権を主張すれば、先の出願で開示された発明について優先権主張の利益を享受しつつ、先の出願で開示された発明の範囲を超える技術的事項を追加することができます。優先権主張の戦略には部分優先と複合優先があり、権利化手続において有効な手段となり得ます。

(1)部分優先
国内優先権は、先の出願で開示されている発明又は考案を基礎として先の出願で開示されていなかった技術的事項を追加するために用いられる場合があります。これは部分優先といわれています。

部分優先では、例えば、サポート要件や実施可能要件を満たすよう新規事項となる構成部分を追加したり、新たに実施例や図面を補充する等、先の出願で開示されている発明の部分は優先権主張による利益を享受しつつ、発明の範囲を広く、十分なものにします。

(2)複合優先
国内優先権は、2以上の先の出願を基礎とすることもできるため、関連のある複数の先の出願を一つの出願にまとめるために用いられる場合もあります。これは複合優先といわれています。

複合優先では、例えば、部品の発明についての出願と完成品の発明についての出願がされている場合や、送信機の発明についての出願と受信機の発明についての出願のようにサブコンビネーションに関する複数の出願がされている場合等に、国内優先権を主張してそれらの出願を一つの特許出願にまとめることで、1の先の出願でのみ開示されている発明についてはその優先権主張による利益を享受し、また、2以上の先の出願で開示されている発明についてはそれらの優先権主張のうち最先のものによる利益を享受します。

5. 国内優先権を主張する際の注意点


(1)優先権を主張しても、後の出願に係る発明のうち、先の出願で開示されている発明の範囲を超えているものについては、優先権主張の利益を享受することができないため、先の出願をしてから後の出願をするまでの間になされた他人の出願等により、拒絶理由や無効理由が生じる可能性がある点に注意する必要があります。

(2)優先権主張の効果の有無は、原則として、請求項ごとに判断され、構成要素ごとに判断されるのではない点に注意する必要があります。

(3)国内優先権の主張は、原則として、先の出願の日から1年以内の期間に限られている点に注意する必要があります。しかし、国内優先権を主張して新たに追加する発明が新規性を喪失している場合には、その発明について新規性を喪失した日から6月以内に新規性喪失の例外規定の適用を受ける必要がありますので、国内優先権を主張して特許出願することができる期間は、通常の期間(1年)よりも短くなる点に注意する必要があります。

※なお、先の出願で開示されている発明が新規性を喪失している場合は、その先の出願の際にその発明について新規性喪失の例外規定の適用を受けなければなりません。

(4)分割に係る特許出願、変更に係る特許出願又は実用新案登録に基づく特許出願については、出願時の遡及的効果があることから、優先権主張の利益を享受するには、もとの出願について国内優先権を主張しておく必要があります。

(5)拒絶理由通知を受けた場合にその拒絶理由を解消するための対策として国内優先権を主張することも考えられますが、それは出願の日から原則1年以内に限られます。出願の日から原則1年を経過してしまうと、拒絶理由を解消するための対策とすることはできません。

(6)後の出願の出願人は、先の出願の出願人と同一でなければなりませんが、後の出願の発明者は、先の出願の発明者と完全同一とは限らない点に注意する必要があります。

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