意2条1項の意匠について
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意匠法2条1項に規定する意匠について

1. 意匠法2条1項に規定する「意匠」


意匠法では、意匠を「物品(物品の部分を含む。第8条を除き、以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美観を起こさせるものをいう」と規定しています(意匠法2条1項)。

つまり、意匠は「物品の形状等」であり、物品を離れての意匠はあり得ないことから、意匠は物品と不可分一体の関係にあるものと解されます。したがって、意匠法上、「意匠」というためには、単なる形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合というだけでは不十分であり、それらが物品に表されたものであることが必要ということになります。意匠がいかなる加工方法によって形成されたものかは、意匠の該当性とは関係ありません。

ここで、「物品の形状」は、意匠の必須の構成要素です。しかし、気体、液体、粉状物、光、熱といった一定の形状を有しないものは、そもそも物品の概念になじまないものであり、意匠を構成しません。

「物品の模様」も意匠の構成要素の一つです。意匠は物品と不可分一体の関係にあるため、模様のみでは意匠を構成しませんが、物品の形状と結合したものであれば、意匠を構成します。

しかし、物品に表された文字は、それが文字として読み取ることが十分可能であり、いまだ文字が模様に変化して文字本来の機能を失っているとはいえない場合には、模様とは認められず、意匠を構成しません(昭55(行ツ)75)。

「物品の色彩」も意匠の構成要素の一つです。色彩も、それのみでは意匠を構成しませんが、物品の形状等と結合することで、意匠を構成します。

それから、意匠は物品の単なる形状等であるだけではなく、「視覚を通じて美観を起こさせるもの」であることも要件とされています。「美観」とは、物品が本来的に有する機能に基づく美観ではなく、審美的な美観のことをいうと解されます。また、「視覚を通じて」と規定されていることから、物品の形状等が美感を起こさせるとしても、視覚ではなく、触覚、聴覚等を通じて美感を起こさせるものであるときは、意匠を構成しません。

「視覚」が肉眼により認識することに限られるのかは、意匠法の文言からは必ずしも明らかではありませんが、意匠に係る物品の取引に際して、当該物品の形状等を肉眼によって観察することが通常である場合には、肉眼によって認識することのできない形状等は、「視覚を通じて美感を起こさせるもの」に当たらず、意匠を構成しないと解されます。

他方で、意匠に係る物品の取引に際して、現物又はサンプル品を拡大鏡等により観察する、拡大写真や拡大図をカタログ、仕様書等に掲載するなどの方法によって、当該物品の形状等を拡大して観察することが通常である場合には、当該物品の形状等は、肉眼によって認識することができないとしても、「視覚を通じて美感を起こさせるもの」に当たり、意匠を構成すると解されます(平17(行ケ)10679)。

2. 技術的思想の創作と意匠


上述のように、意匠は、物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美観を起こさせるものをいい(意匠法2条1項)、専ら物品の美的外観に関するものであることから、特許法又は実用新案法にいう発明又は考案といった技術的思想の創作に関するもの(特許法、実用新案法各1条、2条1項参照)とは異なります。

物品の形状等が、意匠的まとまりを形成して美観を起こさせるようなものの場合には、それが技術的思想の創作に係るものであっても、意匠法による保護の対象となり得ます。

しかし、物品の形状等が専ら技術的思想に由来するものであって、美感とは無関係な場合には、特許法又は実用新案法による保護の対象にはなり得ますが、意匠法による保護の対象ではありません。

3. 商標と意匠


上述のように、意匠は、物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいいます(意匠法2条1項)。

これに対し、商標法では、商標は、人の知覚によって認識されるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるものであって、商品商標にあっては、業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの、役務商標にあっては、業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用するものをいいます(商標法2条1項1号、2号)。

しかし、物品に表された文字商標、図形商標等が意匠と認められるか否かは意匠法上必ずしも明らかではないため、問題となることがあります。

この問題については、意匠法が、意匠の創作、すなわち量産して工業上利用することができる物品の形状、模様等の美的創作を保護する趣旨のものであることから(意匠法1条等)、物品に表された文字、図形等が模様化され、その本来有すべき情報伝達手段としての機能を失っていると見られる場合には、模様としての創作性が認められ、意匠を構成し得るといえます。

しかし、物品に表された文字、図形等が、看者に対してそのように認識させるものであり、かつ認識することが十分可能と見られる場合には、いまだ模様化して文字、図形等の本来の情報伝達手段としての機能を失っているとはいえないため、模様とは認められず、意匠を構成しないと解されます。

4. 美術著作物と意匠


上述のように、意匠法では、意匠は、物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいい(意匠法2条1項)、工業上利用することのできる意匠について所定の要件の下で保護の対象としています(同法3条等)。

これに対し、著作権法は、文化の発展に寄与することを目的としたものであり(著作権法1条)、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と規定した上(同法2条1項1号)、「美術の著作物には、美術工芸品を含むものとする。」(同条2項)と規定しています。

しかし、著作権法では、応用美術のうち美術工芸品以外のものについては、著作権法による保護の対象となるか否かについては何ら規定されていません。そのため、美的創作物が著作権法上の美術著作物に当たるのか、それとも意匠法上の意匠に当たるのかといった法域が問題となることがあります。

この問題については、(1) 専ら美的鑑賞の対象となりうる創作性を備えた純粋美術や、(2) いわゆる応用美術、すなわち実用品に純粋美術の技法感覚などを応用した美術のうち、それ自体が実用品であって極小量製作される美術工芸品については、著作権法が保護を予定している対象であり、他方、(3) 応用美術のうち、実用に供される機能的な工業製品ないしデザインについては、その実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えていない限り、本来、工業上利用することができる意匠、すなわち工業的生産手段を用いて技術的に量産される意匠として保護すべきであり、著作権法が保護を予定している対象ではないと解されます。

5. 部分意匠


意匠法では、意匠を「物品(物品の部分を含む。第8条を除き、以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美観を起こさせるものをいう」と規定し(意匠法2条1項)、物品の部分に係る形状等の創作を的確に保護するため、物品の部分に係る意匠(部分意匠)についても意匠登録を受けられることとしています。

部分意匠といっても、あくまで「物品の部分」の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものであり、通常の意匠(全体意匠)と同様に、物品と不可分一体の関係があります。したがって、物品を離れた単なる模様、色彩等のみでは部分意匠を構成しません。

部分意匠を把握するためには、部分意匠に係る物品、そしてその形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合を把握することは勿論のことですが、それに加えて、部分意匠に係る形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合がその物品全体の中に占める位置、大きさ、範囲についても把握する必要があります。

6. 関連意匠


関連意匠とは、自己の出願意匠又は登録意匠のうちから選択した一の意匠(本意匠)に類似する意匠のことをいい、デザインコンセプトを共通にする類似意匠群を的確に保護するため、一定の要件の下で、先願主義(意匠法9条1項、2項)にかかわらず、意匠登録を受けることができます(意匠法10条1項)。

関連意匠も、具体的な物品(又は物品の部分)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものであり、物品を離れての「デザインコンセプト」なる抽象的、観念的なものではありません。

また、その要件である「本意匠に類似する意匠」か否かも、関連意匠の具体的な構成態様に基づいて判断されます(平17(行ケ)10227)。

7. 動的意匠


動的意匠とは、物品の形状、模様又は色彩がその物品の有する機能に基づいて、動き、開き等の変化をする意匠のことをいい、その変化の前後にわたる物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合を、一の意匠として意匠登録を受けることができます(意匠法6条4項)。

動的意匠も、あくまで物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものであり、物品の有する機能に基づいて形状等が変化する意匠について、その一連の変化を一つの意匠として保護するものです。

8. 組物意匠


組物意匠とは、同時に使用される二以上の物品であって、経済産業省令で定める「組物」を構成する意匠のことをいい、組物全体として統一があることを要件として、一の意匠として意匠登録を受けることができます(意匠法8条)。

組物意匠も、物品から離れての意匠はあり得ないところですが、ただ、「組物全体として統一がある」ことを要件としていることから、組物を構成する二以上の物品間で統一のある美観を起こさせるものでなければなりません。組物意匠は二以上の物品で構成されるものですが、個々の構成物品を保護するものではなく、あくまで組物全体として一つの意匠として保護するものです。

なお、組物は、意匠法施行規則第8条別表第2に掲げられており、現在、56品目あります。詳しくは、こちらの組物及び構成物品をご覧ください。

9. 意匠の保護


意匠法は、工業上利用することができる意匠について、一定の要件の下で、独占的排他権である意匠権を付与することにより、意匠を保護することを趣旨とするものであり、意匠権の効力については、「登録意匠及びこれに類似する意匠」についてその「登録意匠に係る物品と同一又は類似の物品」に及ぶことが規定されています(意匠法23条本文)。

意匠権の存続期間については、平成18年の意匠法等の一部改正により、その意匠権の設定登録の日から20年まで(関連意匠の意匠権にあっては、その本意匠の意匠権の設定登録の日から20年まで)に延長されています(意匠法21条1項、2項)。

他方で、商品の形態については、不正競争防止法でも保護を受けることもできます(不競防法2条1項3号)。同号は、他人の商品の形態をそのまま模倣した商品を譲渡等する行為を不正競争行為と規定し、商品を開発し、市場に置いた者の先行利益を保護しようとする趣旨のものです。しかし、同号には適用除外規定があり、日本国内で最初に販売された日から3年を経過した後は保護を受けられません(同19条1項5号イ)。

近年、魅力あるデザインの商品は、ロングセラーとなったり、復刻版がブームとなることもあることから、そのような商品価値を、意匠として長期間にわたって適切に保護することが重要であるといえます。

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